…「ルーイン・マイ・ハウス」


「今日からこの人はお前の母親、この子はお前の妹だよ」

ベルを鳴らされたドアを開けて聞いた第一声がこれだった。
目の前には間違いなく僕の父親がいて。
でも、後ろには知らない人たちがいて。
僕はいつものように「ただいま」を待っていたというのに。
僕は呆然と後ろの人たちを見た。

ふわりとゆるやかねウェーブがかかった、父さんと同年代ぐらいの綺麗な女性。
赤すぎない鮮やかな赤い服が女性の美しさを際立てていた。
目線を下に向ける。
長い髪の毛を首のほうでひとつにくくった僕より小柄な少女。
白い、ワンポイントにピンクの花があるワンピースを着ていた。
母親に似ていて大変可愛らしい顔立ちをしていた。
どこかあどけなさと、大人びた雰囲気を持ち合わせた不思議な少女だった。
しかし少女は僕と目も合わさない。
何か悩んだように、ずっと俯いていた。
僕は、大人びているこの少女にどこか恐怖をかんじた。

父さんはぼんやりしている僕にやっと気づいてくれたのか状況を説明してくれた。
といってもされないと困るのだが。
父親がにこやかに口を開いた。
曰く再婚した、とのこと。
もう一度僕の動き出していた頭が止まった。
と同時に思わずかばんを落としてしまった。
かちゃん、と小さな音がした。
確か中にめがねが入ってたっけ、割れてないかな…なんて。
のんきな思考が一瞬頭をよぎったがすぐにその思考もとまってしまう。
そりゃあそうでしょう?
学校から帰ってきて、ドアを開けたら見知らぬ親子が今日から僕の家族ですって。
しかも、血のつながらない妹までできてしまった。
もうこれは茶番劇か何かの喜劇としか考えられないわけなのだから。

もしこれがドラマか夢なら僕は納得できたというのに。

父さんはニコニコとしばらく僕の反応を待っていたが、焦れてか黒髪の少女の手をやさしく引いた。
少女は父さんのされるがままに僕の前に誘導される。
黒髪が揺れてくすぐったそうだと
そこで少女は初めて微笑んだ。
息を呑むほど柔らかい笑みだった。
先ほどの困惑した表情とは違い、作り出されたような微笑。
小さな子供が愛想笑いをしたときのような、無邪気な作り笑顔だと僕は思った。
やはり、何か違うんだ。
未だに呆然としている僕に父さんはかまわず続ける。

「さぁ赤音、挨拶しなさい。君のお兄ちゃんだよ」
「はい、お父様」

優しく落ち着いていてはっきりとした声音は、外見年齢からは考えられなかった。
下手すると僕より年上では、と思わすほどだ。
赤音と呼ばれた少女は父さんに優しく微笑えんだ後僕に伏せ目がちに曖昧な笑顔をくれた。

「よろしく…おねがいします」

僕のときだけ遠慮しがちに、おそるおそる何かを探るように挨拶をしてくれた。
探られていると感じた。
父親には子供のように返事を、しかし、僕には他人のように挨拶をした後、また何かを考えるように俯いた
僕はしかめっ面をした。
別にいやな印象を受けているわけでは無い。
何か考えようとして、やめた。
なぜならば少女の母親は心配そうに僕を見ていたからだ。
僕は曖昧に笑みを浮かべる。
それをあまりいい印象を受けてないと思ったのか、少女の母親が少女を自分の後ろに誘導した。
少女の母親が僕ににっこりと微笑んだ。

「はじめまして、幸人くん。わたくし萩原雅人さん。あなたのお父様と結婚させていただきます久保美恵子と申します」
「宜しくお願いします…お母さん」

そう僕が言うと嬉しそうに美恵子さんは微笑んでくれた。
横に居たお父さんも嬉しそうだった。
もはや公認されたと二人は認識したらしい。
僕の笑顔はパズルのように崩れていった。

 

 

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うちゅうは僕らのてのとどかないとこにあるわけじゃないんだ

あつかえないほどぼくらがひりきなだけ